洋がうつむいている…


なんだか少し泣きそう?…


まさか洋が泣く訳ないけど…


悲しそうにしている…


…洋が離れていく…行かないで…


でも声が出ない…待ってー…


洋は段々遠くなって、ぼやけて…














月と夢の物語












ガバッ


あたしの頬には涙の跡ができてる。


『まただ…』


隣の机の時計で時間を確認する。
午前2時38分。
夜の冷たさに手が少し震えてる。
フーとため息をついて、これが現実、と自分に言い聞かせる。
(そして、あれが夢。)


夢。
あたしの好きな洋が悲しそうにしている夢。
また見ちゃった。
どうしてかな…




『洋…会いたいよ…』




がつぶやいた。
月の光がカーテン越しに射している…
時計は午前2時42分。








































***






































パチッ


目が開いた。
額には冷や汗。


(また?…)


ホテルのベッドに慣れないせいか?…


隣には涼がいびきをかいて眠っている。


ここは勿論俺らの故郷ではない。






…」




また見てしまった。
なんでだろう。


の寂しそうにしている顔。


またあの嫌な夢を見てしまった。
いつも笑顔のの、寂しそうな顔。


もう何日会っていないんだっけ…
ツアーに出て…1週間…2週間…


やけに月が綺麗なのに夢うつつになりながら気づいた。


にもこの綺麗な月が見えてるのかな)


そんなことを考えてるうちに眠ってしまったみたいだ。


午前2時46分。












































「…ぅ…ょぅ…ょう…ぅおい!洋!起きろよ!!」




チュンチュン…




「あれ、朝?」




かすれた声で涼に答えた。




「そうだよ!何ぼけっとしてんだよー。
 もうみんな朝食食ってるよ?」




「マジ?」




(起きよう…)










「洋おはよー!」


「あぁかっちゃんおはよ。」


「…どしたの?」


「え?」




(やば…)




「なんかいつにもまして洋がテンション低くない?」




弘樹もこっちに近づいてきた。
これはマズイ。




「具合悪いんだったら無理しなくていいんだよ?」




…さっすが馬鹿だ!
弘樹、俺のこと具合悪いと思ってる。




「あー大丈夫だから。」


「そう?」










黙々と飯を食い終わって(さー部屋に戻るか)と思ったら…


「ねー洋!」


かっちゃんが走って俺の後ろをついてきた。


「ねぇ洋、なんかあったでしょ?」


「いや、べつn「なんかあったでしょ?」




「…あ…ハイ…」




やっぱりかっちゃんには負けるよ。




「で、どうしたの?」


「…実はさ…」










俺はかっちゃんにあの嫌〜な夢のこと。
早くに会いたいこと。
最近電話とかメールとかしてもなんかにあんまり元気がないこと。
とにかくいろいろ話した。
今までの不満を全部ぶちまけた。
そして
「帰りたい…」
とまで言ってしまった。
さすがにこれはまずかったかなとか思ったら、




「じゃあ帰ればいいじゃん!」




とか言うかっちゃん。
まるで自分がすごい思いつきでもしたみたいに目がキラキラ。






「いや、でも、できる訳ないじゃん?
 今ツアー中だし…ね?」


「え?全然無理じゃないよー」


「でも…」


「まぁまぁ、任せといて!」






ポンポンと俺の肩を叩いて腹黒い笑みを浮かべるかっちゃん。


(…?)


そして数日後。俺は。








故郷・沖縄にいる。












































***






ピロリロリロリロピロリロリ〜♪


あたしの最愛の人がベースをつとめるバンドの着メロが鳴る。


(誰だ?)


カパッと携帯を開けてメールをチェックする。






差出人:洋
受信日:20**年*月*日*時*分
題:
本文:さて、俺は今どこにいるでしょう?






自分の居場所も分からない位におかしくなっちゃったのかな…?
あたしは【今日ライブするところ(?_?)】と送った。




1分もせずに戻ってきた。


内容はシンプルに題名に
【山内公園にいます】
だって。








































***






…来なかったらどうしよう!


いきなりそんな思いが頭をよぎった。


最後のメールから返事がない。
(このまま何も来ないのかな…)




日が暮れてきたな…
そんなことを思いながら自分の座っているベンチから道路を見つめていた。
交差点の向こうで赤から信号が変わるのをウズウズと待っている人がいる。
変わった瞬間に走り出した。
走る音とその人は俺の前にまっすぐ近づいてきた。




『ッ洋!!』




だ。




『…なんで…ここにいるの?…』




ゼエゼエと息切れしながら必死に喋っている




に会いたくて。」




『え?…でも…ツアー中なんじゃ…?…』




ベンチの俺の横をポンポンと叩いて
「ここに座って」
に言うとちょこんと座った。
可愛いなあ。
少し沈黙をおいてからがゆっくり話し出した。




『洋ー』


「何ー?」


『最近怖い夢を見るの』


「うん」


『洋が悲しそうにしている夢でね。』


「うん」


『すごく寂しそ〜ぅにしててね。』


「うん」


『なんか、もしかして…もしかしてだよ?


 あたしのこと嫌いになっちゃったのかな、って思ったの。』


「うん」


『そうなの?』








も同じような夢を見てたんだ。
びっくりして少し黙ってた。






「俺もだよ。」


『え?何が??』


がつまんなそうな顔してる夢見るんだ。」


『ホント?』


「うん。それでなんとなく不安になって…


 帰ってきちゃった!」








は驚いていて、目がまんまるで口もポケーっと開いている。






「(プッ)…そんな顔すんなよ…」


『え…だって…びっくりしたから…』


「俺はのこと好きだよ」


『…本当に?』


「じゃなかったら帰ってこないよ。」


『…そうっか…そうだよね…














 洋!!』


「っ!ビックリしたー、何?」






『あたし洋のことが好きです、大好き。
 これからも好きでいたいと思っています。
 …いいですか?』








「なんか俺告白されてる?」




『…』




「当たり前じゃない?」




『…良かったー!』




はニッコリとこっちを見て笑った。
俺はを抱きしめた。




まだ暗くなりきっていない空にまんまるいお月様がいた。
いつもより綺麗で笑ってるように見える。








あの不思議な夢は、心が離れそうな相手がいることを月が教えてくれたんだ、きっと。














***
[おまけ]


「ハッ…やばい!今何時?」


『え?…7時40分…?』


「うそ、やべー俺8時になったら飛行機にのらないとダメなんだ…」


『え?!間に合わなくない?』


「…面倒だから今日はの家に泊まっちゃおうかn『ダメ!』


「えー…」


『お仕事でしょーが。頑張って来なさい!』


「…了解」








飛行機の中で過ごす夜。
あの夢は見なかった。
かわりにが笑ってた…