夕暮れの山内に、足音とバスケットボールの音が響く。








山内公園






























「遅かったじゃん、弘樹?」
「ごめん。」
「うん。まぁいいや。それで聞くけど…何かあったの?」
「…え?」








珍しく午後5時と言う早めの時間にレコーディングを終えた俺は、これまた珍しくレコーディングを見学に来ていたに呼び出され、
午後6時という夕暮れベストタイミングな時間に、ここ山内公園に来た。
は先に着いていたようで、俺が着いた時にはバスケットボールを持って一人でフリースローの練習をしていた。






「いや…最近弘樹がなんか元気ないな、って。」
「…うん」




―――ガシャン




「もし、良かったら何があったのか教えて欲しいなー、なんて。」
「…そっか」




―――ガンッ




の投げたボールがリングに当たる度、軽く音を立てる。




「…俺」
「うん?」




いつの間にこっちに来ていたのか、俺の隣に座って俺の顔を覗き込む。




「なんか、上手くいかなくて。」
「…うん。」
「…歌詞も、頭に浮かぶけど言葉にして書けないし。歌う時も、思ったような声が出ないし、」
「ん…」
「それを関係ないメンバーに当たったりして。大和と喧嘩したし。」
「…そう、か。」




俺の話を聞いて、は俯く。
沈、黙。






「…弘樹は」
「え?」
「そのこと皆に話したの?」
「…いや、変な空気になるの嫌だし…話して、ない。」
「話せばいいのに。」
「そんな…」


「直人はリーダーなんだし、音楽に詳しいでしょ?洋やかっちゃんだって、いつもいい答えを出してくれるし。」
「…」
「涼だって年下だけど、弘樹と同じような事考えてるかもしれないし。」
「う…ん。」
「大和だって。真剣になって話せば。真剣に答えてくれるよ?根に持つような人じゃないし。」
「…」
「そうやって、一人で抱え込むの、弘樹の悪い癖だよ。」
「ッ…」






俺は、泣いていた。の話を聞いて…どこから泣いていたのかは思い出せない。
でも、自分に対する嫌悪感と、の優しさ、それとメンバーに当たった事への罪悪感やなんかが全部混ざって。
自然に、涙が出た。






「泣いちゃえ。弘樹、たまには泣いて、ぜーんぶ吐き出しちゃえ。」
「俺ッ…なッさけねぇー…」
「そんなこと無い。弘樹はカッコイイよ?」
「ンな事…」
「ある。…よし、弘樹。」
「…ぇ?」




は立ち上がって、俺にボールをパスする。




「バスケしよ。全部忘れちゃえ。」
「い、今から!?」
「ホラ、行くよ。」
「…うん。」


俺も立ち上がって、ボールをつく。


「ぜってぇ、負けねェ。」
「今まで泣いてた人が何言ってんの。」
「う…」
「冗談、冗談。でも私も負けないし。」
「…おし、勝負。」












午後6時半。暗くなり始めた山内に、二人分の足音とバスケットボールの音が響く。






-END-