ぐらぐら
「あ、暑い!あーつーい!」
「暑いねー」
「溶ける!どうしよう一人、溶けるよあたし!」
「どうせなら溶けて液体になってから暑さで蒸発しちゃえばいいのにね」
一人は笑顔で言い放つ。彼の目の中に浮かぶ混じりけの無いブラックホールに吸い込まれそうになる体を必死で支えるあたし。傍から見たら変人に見えることこの上ない。
「どうしたの。ぐらぐらしてるよ」
「それは・・・(暑さとあなたのせいですよ)!」
あはは、おもしろーい。
一人は低い渇いた声で笑いながらあたしの体をつつく。いやつつくなんてもんじゃない。両手で精一杯の力を込めてどつく。そのたびにあたしは反対側に大きく傾き、反動で起き上がる。お笑い芸人じゃないんだから一人の期待するようなリアクションは出来ないってば、ああもうやめてよ、起き上がりこぼしじゃ無いんだから。
「よ、酔う!やめ、かずひと!」
「俺、に名前で呼んでいいなんて言ってないんだけど。」
「だって一人もあたしのこと名前で呼・・・っう!」
「俺の事名前で呼んでいいのは彼女だけー。」
辛い一撃が来た。胃の中がシャッフルされてる…!
「俺を誰だと思ってんの。山内の北尾って言われてたんだよ。」
「やめ、て、か・・・(うあうあ!)」
「俺の部屋に無断で上がりこんで、その上クーラーまで付けて暑いなんて言ってんじゃねーよこのクソが」
一人の手があたしをどつくたび脳ががくがくと揺れる気がする。大して入ってないけど希少で貴重なあたしのメモリーを壊さないで下さいお願いします神様仏様北尾様!
「ごめんなさ、北尾様・・・!」
「うん。」
と、止まった…!
いまだ脳が揺れている気がする。沖縄の美しい海の荒波が目に浮かぶよ、お母さん!
「これからは北尾様って呼ばせていただきます…だから許して」
「やだ。」
えええ!
「名前で呼んでいいよ。俺の彼女になるなら。」
一人のその言葉をすんなり受け入れてしまったあたしは、もうすでに彼の目に浮かぶブラックホールに吸い込まれてしまったのだと、素直にそう思った。
不発ー!