正論





























関係を持つのが怖いの、と君は言った。
友達のラインを踏み越えてその先にある“恋人”。
そのエリアに入るのが怖いと言う
なんで?俺が問うと、
だって、恋人のエリアの先は断崖絶壁だもの。
きっとそのうち堕ちてしまう。
そしたらもう、恋人はおろか友達にも戻れないもの。
そう涙を流す君の肩、弱く震えるそれに触れることも出来なかった俺は、何て弱いんだろうと思った。


それなら、友達のままで居たほうがいいでしょう?


その言葉を紡いだ時、君が心に思い描くのは俺じゃないと分かっていた。
俺とは違う、別の、もっと優しい人間。
こういう時、君の肩を優しく抱くことのできる、優しい人間。
まだ見ぬその男の姿に、俺は心の底から嫉妬した。
死んでしまえばいい
そこまで思った俺は、やはり弱すぎると思った。
そうしたら、今度は自分を、その男よりも憎く思った。
死んでしまえばいいのは、俺だ。


ねえ、一人君?


君は涙を湛えた瞳で俺を見た。
違うんだ。分かっている。
俺を見てるんじゃない。俺を通してあの男を思い描いているんだ。
その証拠に、全く目が合わない。
それでも、君の事を嫌いになれない。
いっその事君を嫌いになってしまえれば、君など死んでしまえばと思うことが出来れば、
俺はきっとこんなに苦しくない。
でも、嫌いになってしまうことや、死んでしまえばと嫉妬することが出来るのも、全ては俺が君の事を心から愛しているからで。
矛盾する心はぐるぐるとループを繰り返す。


一人君もそう思うでしょう?


なあ、


俺は彼女の言葉には答えず、そっぽを向いて彼女の名前を呼んだ。
ずっと苗字で呼び続けてきた君の名前。
初めて呼んだそれは、不思議な温度を持って俺の脳内をぐるぐると回った。


の言う事が正しいとすれば、俺はとずっと友達で居るよ。
だって怖いもんな。堕ちるのは。


ほら、また矛盾だ。
この言葉を言ったら、言葉の通りにずっと友達ではいれないと気付いた。
そうだよ。
今、この瞬間俺は、友達のラインを踏み越えてしまったんだ。
もう、戻れないよ。
どこまでも堕ちていく。


君は涙を零した。
俺は君の心に傷を付けた。
俺が君の事を嫌いになれないのなら、君が。
君が俺の事を嫌いになってくれればいい。
こんな弱い人間死んでしまえばいいと、そう思ってくれればいいんだ。


どうせ堕ちるのなら、早く。












堕ちてしまえ。