案の定直人は傘を持っていなかった。
あたしのお気に入りの赤い傘に2人で入るのは、ほんの少し狭かった。




肩が濡れないように必死に直人に身を寄せると、直人はあたしを見て笑った。
何が面白いのか、直人の靴を少しだけ踏んでやった。


「痛っ!」
「なにわらってんの。」


はずみで少し肩が濡れてしまい、あたしは舌打ちした。
直人はまだ笑ったまま、あたしと向き合い、あたしの頬に触れた。
そこからまたが広がる。




「ごめんごめん。だって、顔真っ赤よ?」
「…傘が赤い所為よ」




見破られたような気がして、顔を背けた。
が赤くて本当に良かった。
言い訳もなにもあったもんじゃないもの。




「ふーん、」




直人の意地悪な笑顔が見えたのは一瞬で、そこからは何が起きたのか良く分からなかった。
ただ、あたしが意識をはっきり取り戻した時には、目の端で雨に打たれる赤い傘と、直人のどあっぷを見ただけ。
あたしはゆっくり、目を閉じた。


首筋にあたるが冷たいけど、直人のくれる熱のお陰でさほど気にならなかった。










唇を離してから、直人はもう一度笑った。
「ほら、真っ赤じゃん。」