2人の距離

































「おい、涼」



「…あ?」



「凄ぇカオになってる」



「…」





洋に言われて、やっと自分が顔をしかめていた事に気付く。
携帯を手にして、アドレス帳から一人の人物を呼び出す。





 





1週間前に付き合いだした…彼女。
彼女と言っても、いまだに大して話した事もない。
…照れてんのかって?気にすんな。



このままではいつ別れ話になるかも分からない。
今までの俺ならそんなこと気にしなかった。
まさに、来るもの拒まず・去るもの追わずってヤツ。





でも今回は…状況が違う。
何しろ、前から密かに想いを寄せていた人と付き合うことが出来たのだから。
高校入学当時から気になってはいたが、高3で同じクラスになった。
そこで初めて、が好きだということに気付いたのだ。



それからの俺は、必死だった。
恋(とか自分で言って恥ずかしいが)とは不思議なもんだ。
これまでは誰とでも付き合っていたくせに、自分の気持ちに気付いてからはそんなことを辞めた。







それで…俺はやっと意中の人を手に入れる事ができたのだが。
何しろ急すぎて、何もしていない。
電話やメールはおろか、学校で話す事さえ無い。
せめて一緒に学校に行きたいと思って携帯を取り出したまではいいのだが…



コレだ。
自分から人に、好きな人に連絡を取るなんて、俺にとっては一大事なのだ。
嫌になるな…







そして携帯を開いて顔をしかめ、そのままの状態で今に至る。
俺の部屋にCDを返しに来た洋に、変な目で見られたその時。



俺の携帯が鳴った。





いや、性格には唸った(マナーモードにしてある)のだが。
光る液晶画面に映し出されたのは、“ ”という文字。
俺は急いで通話ボタンを押した。





「もしもし?」
「…あ、宮森君?」
「うん。涼でいいって。」
「あ、うん。ごめんね遅くに?」





壁の時計を見ればもう12時半になろうとしていた。
つかこんなに長い間悩んでたのか、俺は。





「…もしもし?」
「あ…ごめん。何?」
「うん、それで、あのね…?」
「うん。」
「明日、一緒に学校行ける?」





これこそ以心電信?は、何言ってんだ俺。
の言葉に、可笑しくなってるのか?





「迷惑じゃなかったら…で、いいんだけど。」
「迷惑じゃないよ。寧ろ嬉しいし。」
「よかったー。じゃあ、明日どうする?」
「んー、俺迎えに行くよ。」
「ありがとー。」
「どういたしまして。」
「んじゃ…もう切るね?」
「おー。」
「また明日…涼。」
「うん。またな、。」







電話が切れたあとの音が響く間を、人は「空しい」と表現する。
でも今の俺は…明日が楽しみで、そんなこと考えもしなかった。
心臓バクバクだ。







...................







「おい、涼。そろそろ起きろ。」



「ハイハイ。」



「…涼」



「どした?」



「なんかいいことあった?」





何で?と聞けば、昨日の夜とまるで違うから、と洋に苦笑された。





-END-