「涼」


「何?」


「別れよう。」


「…は?」































不協和音
























「じゃ、そういうことだから。」




背中を向けて俺の部屋から出て行こうとするの手を少し乱暴に引いた。
は、俺の方をキツめに睨んで、部屋の中に戻った。




「…どういうことだよ」


「どうって…なんでもないよ」


「なんでもなくねぇよ」




俺が軽く睨むと、はため息をついた。




「わたしさ…かっちゃんに告られちゃったの。」


「…俺じゃなくてかず先輩をとるってことか」


「だって…涼、わたしの事何にも考えてくれてないじゃない、かっちゃんは違うもん。」


「んな…」




そういうことだから。はドアを乱暴に開けて今度こそ出て行った。
しばらくすると、玄関の重めのドアが閉まる音がした。






「おい、涼?帰ったのか?」


「…洋には関係ねえよ」






俺の部屋の前に居るらしい洋に向かってクッションを投げた。
当たる直前にドアに当たって跳ね返って、ぽすっと音を立てて床に落ちた。
俺は携帯を持って、家を出た。












...............






「コーヒーでいい?」


「…ミルクティーないんすか」


「無いね」


「じゃあコーヒーで。ブラック」






かず先輩は、慣れた手つきでコーヒーを入れ始めた。
先輩がそれを俺の前に置いた時、俺は立ち上がった。






「どーした?涼。」


「…かず先輩」


「ん?」


「一回殴らせてください。」






先輩の顔が強張った。
…と思ったら、ため息をついて立ち上がった。






に聞いたんでしょ。」


「はい」


「ごめん…好きだから、どうしても言いたくて。」


「…俺等別れたっぽいんです」


「…え?」


「さっき、俺の家出て行ったんスよ…。」






先輩の顔がまた暗くなった。
先輩は、俺の方を軽く睨んで言った。






「…んで、引き止めなかったんだよ…」


「…は?」


「涼なら、大丈夫だと思ったのに。…いいよ、殴っても。腕と耳はやめてね。ドラム叩けなくなると困るから。」


「…容赦しませんよ」


「いいよ」


「じゃあ…」


ドンッ






その音は、俺が殴った音ではない。
先輩が目をつぶって、俺が殴ろうと腕を構えた時、ドアが鳴った。
先輩は、俺にゴメンと言ったが、その音はシカトした。




「かっちゃん!!!涼!!!」




「「…直人?」」






乱暴に開いたドアの向こうには、直人と…そしてが立っていた。
は、目に涙を溜めていた。






「…


「っ…ごめん、涼。」


「え…?」


「あの後、直人に話して…一緒にかっちゃんちに来たんだけど…部屋の中から二人の声が聞こえたから。」


…」


「やめて、涼。かっちゃんを殴らないでよ…。」






かず先輩の方を見ると、困ったような顔で立っていた。
俺がどうしていいか分からなくなっていると、が話し始めた。






「わたし…留学するの。だから…誰とも一緒に居られない。」


「「え…!?」」






直人は、俺とかず先輩をソファに座らせて、おとなしくさせた。






「ごめんね…。皆。大好き。」
















その3日後、俺らに会わないままは俺らの前から姿を消した。
俺のケータイには、いつ届いたのか一通のメールがあった。




『涼へ
ごめん…本当にゴメン。私、バカみたいだね。
留学して皆に、涼に会えなくなるって考えてて、それでどうなっても良くなっちゃって。
直人に怒られたよ。はそれでもいいのか?って。
かっちゃんにも、直人にも、涼にも、スゴイ迷惑かけちゃったね。ごめんなさい。
4年したら帰ってくるから、それまで待っててくれる?
私が本当に一番大好きなのは、涼だよ。
皆にごめんって、伝えてね。
またね。
          






「何年だって待てるっつーの…」






気付いたら、俺は泣いていた。
目が赤くなっていて、次の日大和と弘樹にものすごい心配をされた。






-END-