大いなる些細な革命 涼
あたしの目は、周囲を隈なく探っている。脳もフル回転させている。
けれど、言葉が見つからない。
こんなとき、なんて言えばいいか、あたしは知らない。
やけに静かだ。
もちろん、人の足音や声、車の音も、
耳を塞ぎたくなるくらいだけど、
どこか遠くに聞こえる。
周りの人達も、あの鮮やかなポスター達も、灰色だ。
色がついているのは、あたしと、目の前の涼だけ。
涼がゆっくりとあたしの方に来る。
涼の足音がはっきりと聞こえる。
「返事は?」
一瞬、何のことかわからなかった。
そんなの決まってる。告白の返事、でしょ?
今さっき、涼に「が好きだ」といわれた事すら忘れるなんて。
涼の大きな手が、あたしの髪を撫でるように梳いていく。
あたしは涼の目を見ずに、言った。
「あたしも、涼が好き。」
次の瞬間、視界が真っ暗になった。
温かい感触もある。
あぁ、これは。
キスだ。
あたしは素直に目を閉じた。
涼が顔を離すと、周囲はいつものカラフルな世界になっていた。
今のは、夢だったのだろうか。
涼は平然と隣を歩いている。
夢でもいいや。
ただ一つだけ確かなのは、あたしの右手を大きな左手で包む、涼の手のあたたかさだけ。
2006.6.2 月下