あなた






















が降っている。
直人は、「今日は帰れるよ」なんてメールを送ってきた。
直人を迎えにいこうと、携帯とお財布だけ持って、玄関を出ようとした。
ドアを開けると、かすかに水の匂い。
それに、降りつける雫が鳴らす小気味いい音も聞こえる。


仕方ない。
靴箱の横に立てかけていたお気に入りの赤い傘を持って、あたしは家を出た。




ぱたぱたとに当たるの音が心地いい。
の日でも気分がこんなに晴れ渡っているのは、きっと直人の所為だ。
直人はいつだってそうだ。あたしの心を晴れにしてくれる。


自分が恥ずかしいことを考えている事に気付いて、ほんの少し笑った。
すれ違ったスーツのお兄さんが、あたしの顔に気付いていない事を祈る。
赤い傘が、きっと隠してくれたと思う。
(あんなお兄さんになんと思われようとあたしはいいの。)
心の中で言い訳をして、少しスピードを速める。




直人のいるスタジオに入って傘を畳む。
スタッフさんの「直人呼んできますね」という声と、暖かいコーヒーが渡される。
コーヒーを飲むと、冷え切った身体に通っていく感触が、確かにあった。




少し遠くに、お気に入りの緑のTシャツを着た直人が見えた。
あたしを見つけると、小走りで寄ってくる。


、早いね。」
「うん、だって直人に会いたかった。」
「ごめんね。もう少しだから、待ってて。」



きゅっと抱きしめられたあたしの身体は、直人が触れているところから段々を持っていった。
それは体の中心に集まり、速い鼓動となってあたしの耳に届いた。
直人にも聞こえているかもしれない。






またスタジオに消えていく直人を見送りながら、コーヒーを一口飲んだ。
コーヒーは、なんだか少し冷めていて、直人の残していった温もりと鼓動には勝てなかった。






直人のもう少しは、どれぐらいになるのか分からない。
それでも、ずっとここで待ってられる自信が、あたしには、あった。




























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